• 和歌山発・世界初の「素粒子チタン光触媒」

光触媒(酸化チタン)について、誤解を生むような解説や広告が溢れています。

以前、下のような動画があるということを教えていただいて観てみたところ、世間に広まっているおかしな酸化チタンイメージがよくまとまっていました。

  • 酸化チタンは光を当てると水を分解できる
  • 酸化チタンはゴキブリまで分解する
  • 酸化チタンは光が当たることで超親水性を発現する

いずれも一般的な光触媒を語る上で、必ずと言っても良いほど目にしたことがあるフレーズではないでしょうか。しかし、これらはどれも重要な説明が省略されてしまっている、ということはご存知ですか?

他にもいろいろな巧妙な言い回しによって、光触媒(酸化チタン)の誇大広告が行われています。ここではそれらのうち主要なものを、動画の内容に沿って取り上げたいと思います。

動画のアップロード元であろう会社のホームページURLはこちら→(https://amikankyo.com/solapur/)
少しスクロールすると、番組シーンの切り抜きや動画へのリンクがあります。

酸化チタンは光だけで水を分解する?

動画ではまず、(光触媒の)「原点となる実験」として、ホンダ・フジシマ効果が水槽で起こる様が映され、

電気も通さず、ただ光を当てるだけで、何も溶けていない水を分解してしまう脅威のこの現象

というナレーションが入ります。

しかし、「白金電極がつながっている」と言われているように、この反応は光電気化学反応であって光触媒反応ではありません。白金電極がつながっていない状態で、水中に入れた酸化チタンに光を当てても何の反応も起こらないのです。

両電極が浸かっている水についても、「何も溶けていない水」などではなく、「電解質溶液」(電解質として水酸化ナトリウムを溶かした水)です。

酸化チタン電極と白金電極が同じ電解液(electrolyte)に浸漬されている場合には、酸化チタン電極にアノーディックバイアス(プラス側の電位)をかけて光を照射すると、白金電極から酸化チタン電極へ電流が流れ(電子の流れは逆)、酸化チタン電極上で酸素、白金電極上で水素が発生する現象である。また、酸化チタン電極と白金電極をそれぞれ浸漬する電解液のpHを変えると、バイアスをかけなくても光電流が流れる。

(大谷文章『光触媒標準研究法』東京図書、2005年、441頁)

とあるように、ここでは両電極が同じ電解液に浸かっているように見えるため、電圧がかけられているのではないでしょうか?

このホンダ・フジシマ効果の発見を「光触媒の原点」としているのも、正確ではありません。

酸化チタンなどの金属酸化物が光触媒反応を起こすことはそれ以前から知られていました。管孝男氏の「光触媒作用の速度と機構」(化学同人『化学』増刊20号、101〜120頁、1965年)という総説によると、光吸着や光脱離の反応機構、吸着酸素の種類(OとO2)などが既に研究されていたことがわかります。

細かいところになりますが、「半導体電極による水の光分解」という論文タイトルのテロップが出るところの原文タイトルをよく見てみると、
Electrochemical Photolysis of Water at a Semiconductor Electrode
直訳すると、「半導体電極による水の電気化学的光分解」です。

酸化チタンはゴキブリを分解する?

動画の半ばでは、次のような発見が紹介されます。

光触媒の粉末を水の中に入れる、そこにエチルアルコールを加えて光を当てると、水だけでなくエチルアルコールも分解される。

葉っぱを入れ、光を当てると、すぐに反応を示した。そして、見事分解できた。ならばと入れてみたのが、なんとゴキブリ。するとゴキブリまで光触媒は完全に分解してしまった。

しかし、そもそも酸化チタンの光酸化反応に「水」は必要ありません。

〜酸化反応に水は不要だ。酸化チタン上で酸化反応が起こるには、酸素がありさえすればいいのである。その証拠に、酸化チタン光触媒反応に水を加えても、酸化チタンの酸化力は特に変化しない。

(佐藤しんり編著『図解雑学 光触媒』ナツメ社、2004年、120頁)

〜酸素による光酸化反応は、光触媒に吸着した酸素が活性酸素になっておこるのだから、酸素が光触媒表面に十分供給されていなくてはならない。しかし酸化チタンへの酸素の光吸着は遅いので、吸着酸素が不足しやすい。とくに水溶液中での酸素による酸化反応は、攪拌していても酸素の供給(拡散)が間に合わなくなりやすい。

(佐藤しんり『光触媒とはなにか 21世紀のキーテクノロジーを基本から理解する』講談社、2004年、92頁)

さらに、光触媒(酸化チタン)による分解作用は多量の物質を処理するのには不向きであり、動画に出てくるような大きなゴキブリを分解するとはとても考えられません。

どうにもおかしいので調べてみると、

フラスコの中に5ミリぐらいの小さなゴキブリと酸化チタンの粉を入れて光を当てる。そうすると、ゴキブリも完全になくなって二酸化炭素になります。ただし、2年間かかりました。(略)実は、この時には20ミリワットの強い紫外線をがんがんに当てたのです。大腸菌のときの20倍です。

(橋本和仁「自然エネルギーを利用する環境技術:光触媒」(法政大学人間環境学会『人間環境論集』8、特集号、53-64頁、2008年))

とのことでした。実際には水を入れていたわけではなく、しかも「5ミリほどのゴキブリ」……。番組の映像とは全く大きさが違いますし、強い紫外線を当てても二年間を要したという重要な情報も省かれています。

番組中で「えええーー!」という驚きの声が入っており、おそらくそれを狙ってのことなのでしょう。けれども、権威ある大学の方がテレビだから、エンタメだから、嘘を言っているわけではないからと、こんなにも誤解を与えるような表現をしても良いのでしょうか?

さらに、別の本には次のように書かれています。

水中で酸化チタンにプラチナ(白金)を混ぜた光触媒に光を当てると、有機物が酸化されて二酸化炭素が発生するとともに、水素がブクブクとおもしろいように出てきた。
はじめ有機物にはアルコールを使っていたが、実は何でもよかった。池の水を入れても、小便を入れても反応したし、最後はおもしろ半分にゴキブリを入れてみると、見事に反応して水素を発生した。その後、一年間にわたって紫外線ランプの光を当て続けることにより有機物の塊であるゴキブリも完全に分解することもできた。

(岸宣仁『光触媒が日本を救う日 独創からの反撃』プレジデント社、2003年、45頁)

一体、どれが本当の話なのでしょう。

科学技術振興機構によるインタビュー記事「第4回「ジョークでやった実験が大発見につながった」(橋本和仁氏/東京大学大学院工学系研究科教授)」によると、中学生に向けた講演会でもゴキブリ分解エピソードが光触媒の面白さや「凄さ」を伝えるために使われたようです。その際にはきちんと説明されたのでしょうか?

酸化チタンは無色透明?

番組の内容からは少し逸れますが、そのインタビュー記事には次のような気になる表現が見られました。

酸化チタンは無色で、その粉末は、女性のお化粧の白粉(おしろい)の原料に使われているごくありふれた物質です。

(略)

酸化チタンは無色透明ですから、様々な材料にただ塗っておくだけで、太陽光と雨水さえあれば、ばい菌も、空気の汚れも簡単に分解してくれるのです。

「酸化チタンは無色」「酸化チタンは無色透明」と繰り返されているのですが、光触媒に利用される酸化チタンは見た目にはあくまで「白い粉末」です。塗料や化粧品、食品など身近に広く利用されているのも「白色顔料」、白色の「着色料」としてです。

酸化チタンを超微粒子にすることで、無色透明なコーティングにしようと試みられていますが、どれだけ細かくしたところでその溶液は「白濁」してしまいます。薄く塗り広げることによって「透明」に施工できたとしても、時間とともに白くなってしまうことはままあることで、高速道路の防音壁が全撤去・総入れ替えされたことがあるほどです。(そのためにどれだけの費用がどこから出されたのか……。)

つまり、酸化チタンは、「無色透明」な状態にして「様々な材料にただ塗っておく」ことが非常に難しい素材なのです。

酸化チタンは超親水性?

動画の最後では、光触媒の「超親水性」がテレビのスタジオで実演されています。光触媒施工のガラスは水がついても水滴にならず、油性ペンによる落書きも光触媒施工された壁なら濡れ雑巾でこするだけで落とせる。これが光触媒(酸化チタン)の効果だと説明されているのですが、ちょっと待ってください。

当社の素粒子チタン光触媒を施工した「酸化チタンだけが結合した表面」は「疎水性」になることが確認されています。「超親水性」の発見・証明は、

酸化チタンにシリコンを組み合わせた光触媒の薄膜表面

(岸信仁『光触媒が日本を救う日 独創からの反撃』プレジデント社、2003年、65〜66頁)

によってなされたものであって、「酸化チタン単独の光触媒でコーティングした表面」について超親水性が確認されたわけではありません。

ではなぜ、一般的な光触媒が「超親水性」になるのかというと、バインダー(接着剤)として使われるシリカの存在が関係しているように思われます。

超親水性の実用化にあたっておそらく最初に取得された特許、「基材の表面を光触媒的に超親水性にする方法、超親水性の光触媒性表面を備えた基材、および、その製造方法」に、興味深いことが書かれています。

「基材の表面をチタニア等の光触媒性半導体材料を含む層で被覆する行程と、前記光触媒性材料を光励起して前記層の表面の水との接触角を約10°以下にする行程からなる表面の親水化方法」について、

前記層は光触媒性材料の粒子が均一に分散された塗膜によって形成されている

前記塗膜はシリコーンからなり、前記塗膜の表面はシリコーン分子のケイ素原子に結合した有機基が光励起に応じて光触媒性材料の光触媒作用により少なくとも部分的に水酸基に置換されたシリコーン誘導体で形成されている

というフレーズが繰り返されています。酸化チタン粒子を施工面にくっつけるためには必ずバインダーが必要であり、シリカなどのケイ素化合物がよく利用され、特に超親水性をうたう製品には必ずといってよいほど含まれているのです。

ただ、超親水性になる原理についての一般的な解説は、

光照射前の酸化チタン表面は一様に疎水性ですが、光照射に伴って親水性の微小領域(ドメイン)が形成されていき、最終的には一様に親水性表面になります。

(藤嶋昭『第一人者が明かす光触媒のすべて』ダイヤモンド社、2017年、198頁)

光触媒の効果によって油汚れが分解されること、また酸化チタンの酸素が光照射によって抜け落ち、これが水分子と反応して水酸基を作ることにより、表面と水分のなじみがよくなることによります。

(東京大学ホームページ「光触媒の新世界市場との対話が生んだブレークスルー」2014年6月10日掲載記事、2023年7月31日閲覧)

酸化チタン(TiO2)は、酸素原子と金属のチタンが規則正しく並んだものだ。ここに光が当たると酸素原子が飛び出し、その抜け穴に当たる部分に水分子の酸素が潜り込む。もともと水よりも油がなじみやすい酸化チタンだが、こうして水になじんでくる。光を当てるほどより多くの水分子が酸素に置き換わるため、親水性がさらに高まり究極の姿として超親水性の状態になるわけだ。

(岸信仁『光触媒が日本を救う日 独創からの反撃』プレジデント社、2003年、70頁)

というように、「酸化チタンの」構造変化によるものとされています。

しかし、「光が当たると」酸化チタン(TiO2)自体の「酸素」が飛び出すというのは、少なくとも、「光が当たると」酸化チタン表面の「電子」が抜けた孔に酸素が解離吸着し、活性酸素となって脱離するという酸化チタン単独の光触媒の光酸化反応とは両立するようには思えません。

1995年以降の光触媒の実用化に伴って「水を必要とする光酸化反応の原理」が考え出されたことと関連しているのではないでしょうか(詳しくはこちら)。

ともあれ、酸化チタン単独のコーティングを用いて研究が行われているわけではないにもかかわらず、超親水性を酸化チタンの性質としてしまうのは学者としていささか短絡に過ぎるでしょう。

キーワードは「水」

  • 白金が対極にない限り不可能であるのに「酸化チタンは光だけで水を分解する」
  • 光触媒の研究は以前から進んでいたにもかかわらず「ホンダ・フジシマ効果の発見が光触媒の原点」
  • 5ミリほどのゴキブリに強力な紫外線を当てて二年かけて分解したことを「酸化チタンは(水中の)ゴキブリを分解する」
  • 無色透明な酸化チタン光触媒を完成できないにもかかわらず「酸化チタンは無色透明」
  • バインダー入り酸化チタンによる超親水化を「酸化チタンの性質とみなす」

これらに共通するキーワードは「水」。超親水性現象の発見から特許戦略を駆使して実用化を進めるにあたって、都合のよい表現が行われていることがわかります。

一体、国家予算はどれだけ使われたのでしょうか……。