『1億人の大質問!?笑ってこらえて』TV番組
『もうちょっとでノーベル賞!?世紀の大発見!光触媒』
このTV番組は「世紀の大発見」光触媒(酸化チタン)が起こす次の現象を取り上げています。
Q1.「酸化チタンは光を当てると水を分解できる」
Q2.「酸化チタンは水の中のゴキブリを分解できる」
Q3.「酸化チタンは光が当たることで超親水性を発現できる」
いずれも一般的な光触媒を語る上で、必ずと言って目にしたことがある文言です。
しかし、これらのどれも酸化チタンではできない反応です。
大学と企業が組んだことで何でもできてしまうことには驚き、
いろいろな言い回しによって「酸化チタン」の誇大広告が行われています。
まずは、TV動画をご覧ください。
動画のアップロード元ホームページURLはこちら→(https://amikankyo.com/solapur/)
酸化チタン(二酸化チタンとも言います)は絶縁体で電気を通さない物質です。しかし、1995年以降、絶縁体からn型半導体と彼らの都合の良いように変えられてしまいました。彼らにできないことはないのです。
酸化チタンは光活性を持つn型半導体
酸化チタンは、酸化亜鉛などとともに酸化物半導体の仲間であり、特に不純物を入れなくても、結晶中の酸素がとれて不純物半導体のように働き、n型半導体に分類されます。また、酸化チタンには光が当たると電気が流れる性質があることから、光半導体ともいわれます。光効果、光活性といわれる性質で、光触媒反応もこの性質を活用しています。『第一人者が明かす光触媒のすべて』ダイヤモンド社、2017年、181〜183頁
TV動画では、「原点となる実験はこの水槽で行われた」と水槽で起こる様が映されます。
『電気も通さず、ただ光を当てるだけで、何も溶けていない水を分解してしまう脅威のこの現象!』
「光触媒(酸化チタン)がもつ不思議な力を世界で初めて発見した凄い先生」だった!
しかし、白金電極がつながっているこの反応は光電気化学反応であって光触媒反応ではありません。
両電極が浸かっている水についても、「何も溶けていない水」などではなく、「電解質溶液」(電解質として水酸化ナトリウムを溶かした水)なのです。
酸化チタン電極と白金電極が同じ電解液(electrolyte)に浸漬されている場合には、酸化チタン電極にアノーディックバイアス(プラス側の電位)をかけて光を照射すると、白金電極から酸化チタン電極へ電流が流れ(電子の流れは逆)、酸化チタン電極上で酸素、白金電極上で水素が発生する現象である。また、酸化チタン電極と白金電極をそれぞれ浸漬する電解液のpHを変えると、バイアスをかけなくても光電流が流れる。(大谷文章『光触媒標準研究法』東京図書、2005年、441頁)
とあるように、ここでは両電極が同じ電解液に浸かって微電圧がかけられています。
この効果の発見を「光触媒の原点」とするのはおかしい。
酸化チタンなどの金属酸化物が光触媒反応を起こすことはそれ以前から知られていました。管孝男氏の「光触媒作用の速度と機構」(化学同人『化学』増刊20号、101〜120頁、1965年)という総説によると、光吸着や光脱離の反応機構、吸着酸素の種類(O–とO2–)などが既に研究されていたことがわかります。
科学雑誌「ネイチャー」の論文には
Electrochemical Photolysis of Water at a Semiconductor Electrode
「半導体電極による水の電気化学的光分解」とあり、光触媒反応の分解ではない。
電気化学セルの電極に半導体を用い、半導体電極に光を当てたときの現象を研究する分野
酸化チタンは水を分解することができない。
水中に入れた酸化チタンに光を当てても何の反応も起こらないのです。
〜酸化反応に水は不要だ。酸化チタン上で酸化反応が起こるには、酸素がありさえすればいいのである。その証拠に、酸化チタン光触媒反応に水を加えても、酸化チタンの酸化力は特に変化しない。(佐藤しんり編著『図解雑学 光触媒』ナツメ社、2004年、120頁)
〜酸素による光酸化反応は、光触媒に吸着した酸素が活性酸素になっておこるのだから、酸素が光触媒表面に十分供給されていなくてはならない。しかし酸化チタンへの酸素の光吸着は遅いので、吸着酸素が不足しやすい。とくに水溶液中での酸素による酸化反応は、攪拌していても酸素の供給(拡散)が間に合わなくなりやすい。(佐藤しんり『光触媒とはなにか 21世紀のキーテクノロジーを基本から理解する』講談社、2004年、92頁)
ゴキブリを分解した人はこの先生だけです。本当でしょうか?
TV動画の半ばでは、次のような発見が紹介されます。
「光触媒の粉末を水の中に入れる、そこにエチルアルコールを加えて光を当てると、水だけでなくエチルアルコールも分解される。
葉っぱを入れ、光を当てると、すぐに反応を示した。そして、見事分解できた。ならばと入れてみたのが、なんとゴキブリ。するとゴキブリまで光触媒は完全に分解してしまった。」
しかし、そもそも酸化チタンの光酸化反応に「水」は必要ありません。
さらに、光触媒(酸化チタン)による分解作用は多量の物質を処理するのには不向きであり、動画に出てくるような大きなゴキブリを分解することはあり得ません。(誰もやったことがない)
どうにもおかしいので調べてみると、
自然エネルギーを利用する環境技術:光触媒」←PDF(58頁から)
(法政大学人間環境学会『人間環境論集』8、特集号、53-64頁、2008年))
フラスコの中に5ミリぐらいの小さなゴキブリと酸化チタンの粉を入れて光を当てる。そうすると、ゴキブリも完全になくなって二酸化炭素になります。ただし、2年間かかりました。(略)実は、この時には20ミリワットの強い紫外線をがんがんに当てたのです。大腸菌のときの20倍です。
とのことでした。実際には水を入れていたわけではなく、しかも「5ミリほどのゴキブリ」……。番組の映像とは全く大きさが違いますし、強い紫外線を当てても二年間を要したという重要な情報も省かれています。(これも嘘っぽいですね。)
番組中で「えええーー!」という驚きの声が入っており、おそらくそれを狙ってのことなのでしょう。けれども、権威ある大学の先生がテレビだから、エンタメだからと、こんなにも誤解を与えるような表現をしても良いのでしょうか?
さらに、別の本には次のように書かれています。
(岸宣仁『光触媒が日本を救う日 独創からの反撃』プレジデント社、2003年、45頁)
水中で酸化チタンにプラチナ(白金)を混ぜた光触媒に光を当てると、有機物が酸化されて二酸化炭素が発生するとともに、水素がブクブクとおもしろいように出てきた。
はじめ有機物にはアルコールを使っていたが、実は何でもよかった。池の水を入れても、小便を入れても反応したし、最後はおもしろ半分にゴキブリを入れてみると、見事に反応して水素を発生した。その後、一年間にわたって紫外線ランプの光を当て続けることにより有機物の塊であるゴキブリも完全に分解することもできた。
本当の話はどれ?全て噓?
水の中のゴキブリを分解することを再現した人は誰もいません。
「3年以内に結果を出せなかったら出て行ってもらうよ」
この言葉がゴキブリを分解させたかもしれません!?
酸化チタンの誇大広告の始まりです。
TV動画の最後では、彼らの発見である光触媒の「超親水性」がスタジオで実演されています。
光触媒施工のガラスは水がついても水滴にならず、
油性ペンによる落書きも光触媒施工された壁なら濡れ雑巾でこするだけで落とせる。
これが光触媒(酸化チタン)の効果だと説明されているのですが、
ちょっと待った!
酸化チタンは疎水性、光があたっても親水性にはなりません。
何か違うもの(親水性になるもの)が混ぜられているのです。
それは、
酸化チタンにシリコンを組み合わせた光触媒の薄膜表面
(岸信仁『光触媒が日本を救う日 独創からの反撃』プレジデント社、2003年、65〜66頁)
シリコーンによって親水現象を発現させているのです。
超親水性の実用化にあたって取得した彼らの特許「基材の表面を光触媒的に超親水性にする方法、超親水性の光触媒性表面を備えた基材、および、その製造方法」にそのことが書かれています。
「基材の表面をチタニア等の光触媒性半導体材料を含む層で被覆する行程と、前記光触媒性材料を光励起して前記層の表面の水との接触角を約10°以下にする行程からなる表面の親水化方法」から
前記層は光触媒性材料の粒子が均一に分散された塗膜によって形成されている
前記塗膜はシリコーンからなり、前記塗膜の表面はシリコーン分子のケイ素原子に結合した有機基が光励起に応じて光触媒性材料の光触媒作用により少なくとも部分的に水酸基に置換されたシリコーン誘導体で形成されている
シリコーンの表面は光触媒材料に関係なく親水性現象を発現します。
光触媒性材料って何?
光照射前の酸化チタン表面は一様に疎水性ですが、光照射に伴って親水性の微小領域(ドメイン)が形成されていき、最終的には一様に親水性表面になります。
(『第一人者が明かす光触媒のすべて』ダイヤモンド社、2017年、198頁)
ここではシリコーンについて一言も触れていない。
酸化チタンが光によって、疎水性から親水性の表面になると書いています。
これって、酸化チタンの誇大広告では・・・?
TV画像でもシリカの存在すらありません。
東京大学のホームページにも
「東京大学ホームページ→光触媒の新世界市場との対話が生んだブレークスルー」2014年6月10日掲載記事、2023年7月31日閲覧)
光触媒の効果によって油汚れが分解されること、また酸化チタンの酸素が光照射によって抜け落ち、これが水分子と反応して水酸基を作ることにより、表面と水分のなじみがよくなることによります。
酸化チタンはこのような反応はしません。
(岸信仁『光触媒が日本を救う日 独創からの反撃』プレジデント社、2003年、70頁)
酸化チタン(TiO2)は、酸素原子と金属のチタンが規則正しく並んだものだ。ここに光が当たると酸素原子が飛び出し、その抜け穴に当たる部分に水分子の酸素が潜り込む。もともと水よりも油がなじみやすい酸化チタンだが、こうして水になじんでくる。光を当てるほどより多くの水分子が酸素に置き換わるため、親水性がさらに高まり究極の姿として超親水性の状態になるわけだ。
というように、彼らは「酸化チタンの」構造変化によるものとされている。
しかし、「光が当たると」酸化チタン(TiO2)自体の「酸素」が飛び出すというのは、ありえません。少なくとも、「光が当たると」酸化チタン表面の「電子」が抜けた孔に酸素が解離吸着し、活性酸素となって脱離するという酸化チタン光触媒の光酸化反応とは両立するものではないのです。
1995年以降の光触媒の実用化に伴って「水を必要とする光酸化反応の原理」が考え出されたことと関連しています(詳しくはこちら→光触媒とは(常識・非常識))。
このTV番組で紹介された彼らの企業は、2017年、このおかしな光触媒事業から撤退しました。
もうちょっとでノーベル賞!笑ってこらえて!